東京高等裁判所 昭和38年(ネ)849号 判決
当裁判所の判断は、次のようにつけ加えるほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
本件建物は間数が二間であること、被控訴人のみが控訴人の扶養義務者でないこと、被控訴人が控訴人に対して本件訴訟手続中の和解期日で、建物を明け渡す条件として、明け渡しと同時に金十五万円、その後毎月金一万円ずつを三十五回にわたつて文払う旨申し入れたことは当事者間に争いがなく、当審における証人三間ハナの証言によると本件建物には現在控訴人及び被控訴人の弟大二郎のほか控訴人の妻ハナ及び被控訴人の妹文江の計四名が居住するようになつたこと、右の和解の申し入れを拒否したのは、一時にその合計金五十万円の支払いを受けなければ、その提示のような月払いではその支払に信を措けないとしたからであることが認められ、これに原審認定の事実を考え合せると、被控訴人において本件建物を帽子製造の仕事場とし、かつ結婚生活のための住居として使用するために、現に住んでいる控訴人及びその家族ら四名と居をともにすることは、被控訴人と控訴人ら家族との間が不和で、かつ建物が狭いことから不可能なことで、さらに、被控訴人としては控訴人に対し本件建物の明け渡しを求めるために相当な金額を支払う和解の条件を示されたのに対しこれといつた理由がなく拒否したことを認められる。このことからすると、被控訴人は、控訴人の実娘ではあるが、本件使用貸借の解約権の行使としての明け渡しの請求をするについて、たゞ本件建物がその所有にあるということだけではなく、実父である控訴人に対してできるだけの道を尽し、かねてからの希望を実現しようとしているものであるのに対して、控訴人がその希望に応じないことは被控訴人の幸福を犠牲にするものにほかならない。このような事情のもとにおいて、被控訴人が本件建物の明け渡しを請求することは、親と子が相互に扶け合うことを目的とする親族間の道義を破壊するほどの権利の濫用と認めることはできない。
(千種 岡田 館)